整体師を目指す人のために、最低限覚えておきたい解剖学の知識を解説する「ゼロから始める基礎解剖学」。
前回は「なぜ解剖学を学ぶのか」についてお話してきました。
今回、総論編の2回目は「解剖学用語と関節運動」を取り上げます。
解剖学用語の基礎
人体の各部分の名称と位置・方向を示すために用いられる解剖学用語があります。
ここでは、整体師が最低限覚えておくべき解剖学用語について解説します。
方向と位置を示す用語
人体を構成する3つの面
現実世界は3次元とされています。数学ではこの3次元を表すために、x軸、y軸、z軸を用いることがあります。
人体も同じように、3つの面を用いてその方向を示すことがあります。
その3つの面とは以下のとおりです。
- 水平面:直立した姿勢で、地平線に平行な面
- 矢状面:正面から矢が体を射抜く方向を含む面
- 前頭面(前額面、冠状面と呼ぶこともある):額に平行な方向の面
その他の表し方
その他にも以下のような表し方があります。
- 正中線:身体を左右に分ける真ん中の線。正中線を通る矢状面を正中面と呼びます。
- 内側・外側:正中線に近い位置を内側、遠い位置を外側と呼びます。
- 遠位・近位:体肢で身体の中心に近い位置を近位、遠い位置を遠位と呼びます。
- 前面(腹側)・後面(背側):人体の前面と後面の分類。(上肢は曲がる方が前面であることに注意)
ここまで挙げてきた方向と位置を表す用語は、セラピストにとって必須の知識です。少しづつでも構わないので、確実に覚える必要があります。
人体各部の名称
人体は
- 頭(頭・顔)
- 頚
- 体幹(胸・腹)
- 体肢(上肢・下肢)
に分かれています。
それぞれ境界線が定義されていますが、ここでは、上肢と下肢についてのみ境界線を紹介します。
上肢:三角胸筋溝-三角筋の起始縁-腋窩を結ぶ線
下肢:鼠径溝-上前腸骨棘-尾骨-殿裂-陰部大腿溝を結ぶ線
関節の運動方向と可動域
ここからは関節の運動に関して学んでいきます。
関節の運動方向と可動域
関節の運動方向には
- 屈曲と伸展
- 内転と外転
- 内旋と外旋
- 回内と回外
があります。
人体の各関節には、それぞれその運動方向が定義されており、正常とされる可動範囲(可動域)が示されています。
膨大な情報量となってしまうのでここでは逐一取り上げませんが、下に関節可動域の一覧表を見ることができるリンクをいくつか貼っておきますので、そちらをご覧ください。
関節可動域については、一度にすべてを覚える必要はありません。
臨床時や検査時、記録時に、自分が関節をどの動きに操作しているのか、折に触れて確認するように意識していると、必要な部分については自然に覚えられます。
疑問に思うときに資料を参照して逐一確認すれば良いと思います。
可動域についても、整体師の場合は、スケールで毎回角度を測定する必然性はほぼありません。
しかしながら、施術前の異常の把握や施術後の改善度合いをみるために、可動域検査は有用です。
そのため、正確な数値を覚える必要はあまりありませんが、正常な可動域はだいたいこれくらいというのを、目で見ることができる、手で感じることができることを最初の目標にしてみてください。
最終的には、主目的で検査している関節だけでなく、その周囲で代償運動が起こっていないか、他の関節との連動性はどうか、ということを把握できるようになる必要があります。
代償運動と連動性を把握することは、施術を組み立てていくために必要な情報を数多く与えてくれます。ですから、日々の臨床でこれらの観察眼を養うように心がけましょう。
代償運動と連動性
ここからは代償運動と連動性について解説していきます。
代償運動とは
例えば、左腕だけ挙上(バンザイの動作)してもらう検査をするとします。
不具合がない場合は、主に肩関節を中心とした動作だけで正常な範囲まで腕を上げることができます。
一方、肩関節周囲に不具合がある方に同様の動作をしてもらうと、一見正常な方と同じように上がっているように見えているが、よく観察すると、肩関節ではなく、背中を反らせることで腕を上げているということがあります。(下図参照)
このように、ある動作の中で主体となる筋・関節単体だけでは対応できない場合に、本来は主体ではない筋や関節を使って動作することを代償運動と呼びます。
セラピストが代償運動を見抜けないと、異常がある筋や関節を見落としてしまうことにもなりかねません。代償運動を見抜く観察眼を養うように心がけましょう
連動性とは
例えば、直立した姿勢から前かがみになって床に手をついてもらうような動きについて見てみましょう。
このとき主に動くのは腰椎ですが、腰椎の動きだけでは床に手はつきません。股関節や骨盤、胸椎・頚椎などが一緒に動くことで、スムーズな動作が可能になります。
このように、ある動作を行う際に、複数の関節や筋肉が共働する性質のことを連動性と呼びます。
臨床において、ある特定の動作をしてもらい、連動性が落ちている部分を見つけることで、施術のヒントが得られることも多々あります。
代償運動と連動性を観察するコツ
最後に筆者が思う、代償運動と連動性を観察するコツについてお話します。
施術者が代償運動と連動性を観察する上で大事なことは、対象者を凝視しすぎないことです。
ちょっと距離をおいて全体をぼんやりと観察する方が、気になる箇所を見つけやすくなります。
まとめ
今回取り上げた内容のなかで、方向と位置を示す用語は、主に自分が学習する際や記録を取る際に役立つ知識です。
一方、可動域や連動性は主に臨床で役立つ知識となります。
いずれもセラピストとして必須の基本知識です。現場で使いながら少しずつ知識を増やしていくように心がけたいところです。
次回、総論編の第3回目は「神経系」について解説したいと思います。
それではまたお会いしましょう。
