ゼロから始める基礎解剖学 総論編第4回 筋膜とアナトミー・トレイン

解剖学

整体師を目指す人のために基礎解剖学を解説する「ゼロから始める基礎解剖学」

前回は「神経系」について取り上げました。

総論編の4回目は「筋膜とアナトミー・トレイン」を解説します。

アナトミー・トレインは、通常の解剖学の教科書で取り上げられている項目ではありません。
しかしながら、これからのセラピストには必須の知識であると個人的には思っています。
そこで総論編の最後に、これを取り上げてみました。

筋膜療法とアナトミー・トレイン

手技療法のなかには、「筋膜リリース」や「筋膜はがし」などと名付けられた手技があります。
整体の仕事に興味を持つ方であれば、このような『筋膜の概念を取り入れた手技療法』の存在を知っている、または体験したことがあるという方も多いかと思います。

また、最近では「筋膜」のことを「ファシア」と呼ぶ例も多く見られます。

ここでは、筋膜を活用した手技を理解する上で有用な「アナトミー・トレイン」の概念を中心に述べたいと思います。

(ここからは便宜上、筋膜リリースなど『筋膜の概念を取り入れた手技療法』をすべて『筋膜療法』と総称して記載します。)

筋膜療法は意外に新しい?!

現在では、一般の方にも有名な筋膜療法ですが、この療法がこれほどまでに一般化したのは、実はそれほど昔のことではありません

筋膜療法が一般化したきっかけは、アメリカのThomas W. Myers(トーマス・W・マイヤース)が著書「Anatomy Trains; Myofascial Meridians for Manual and Movement Therapists」を2001年に出したことに始まります。
その後同書は世界12言語で翻訳され、その独創的な理論が徐々に世界中のセラピストに広まり、筋膜療法が一般化してきたという経緯があります。

日本では2009年に、翻訳版「アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線」が初めて出版されました。
したがって、日本において筋膜療法が一般化したのはそれ以降のことで、10年間程度前のことと言っても過言ではない状態です。

セラピスト必携の本「アナトミー・トレイン」

2020年現在では、2016年発行の改訂第3版が最新版となっていますが、現在でもAmazonのセラピスト関連のカテゴリで、売上ランキング上位に位置しています。

このように、「アナトミー・トレイン」はセラピストにとっては必携の本となっています。

「アナトミー・トレイン」の概念

まず初めに、マイヤースの著書「アナトミー・トレイン」の内容について、日本版を発行している医学書院の紹介文を元にざっと紹介します。

人体を走る「筋筋膜経線」を鉄道路線に見立て、姿勢・運動機能の制御、ひずみによる機能障害のしくみを解説した本
これだけでは何のことかさっぱり解らないと思いますので、まずは「筋筋膜経線」とは何かを解説します。

筋筋膜経線とは何か?

人体の特定の部分の筋群は、その表面を包む筋膜と呼ばれる結合組織を通じて互いにつながっている

マイヤースはホルマリン漬けではない、新鮮な献体を解剖・観察してきた結果から、このように考えました。

そして、

解剖した際に結合組織を通じて互いに一つの連続体、すなわち「ライン(線)」としてたどることのできる筋群のつながりを「筋筋膜経線」と名付けました

従来の解剖学と筋膜

従来の解剖学では、ひとつの筋を骨に付着している上下で分け、その構造・機能を分析するというのが中心でした。(マイヤースはこれを「分離筋理論」と呼んでいます。)

筋膜については従来の解剖学書では、

筋膜は筋の表面を包む結合組織の膜である。筋を保護し、その位置に支持し、収縮を制限する。また、筋の収縮の際に隣接する筋との摩擦を軽減する。
(引用:岸清・石塚寛 編 2002年「解剖学」医歯薬出版)

と記載されており、筋と筋を連結する結合組織としてはとらえていないことが伺えます。

マイヤースが理論化した筋筋膜のネットワーク

ここまで述べてきたように、従来の解剖学ではそれぞれ個別のものとして扱われがちだった筋肉・筋膜を、マイヤースは「ライン」でつながった一連のものととらえ、「筋筋膜経線」として紹介、理論化しました。

そして、そのラインを鉄道の線路に例え、「アナトミー・トレイン」と称しました

その上で、このラインが

  • 人間の姿勢保持や運動動作に深くかかわっていること
  • 不具合によって機能障害を引き起こすこと

を明らかにしました。

これらの理論を著書としてまとめたのが「アナトミー・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線」ということになります。

 7本の筋筋膜経線

「アナトミー・トレイン」では人体に存在する筋筋膜経線として次の7本を上げています。

  • スーパーフィシャル・バック・ライン(SBL)
  • スーパーフィシャル・フロント・ライン(SFL)
  • ラテラル・ライン(LL)
  • スパイラル・ライン(SL)
  • アーム・ライン(AL)
  • ファンクショナル・ライン(FL)
  • ディープ・フロント・ライン(DFL)

権利の関係もあるので、すべてのラインをここでは取り上げませんが、一例としてSBLを見てみましょう。

スーパーフィシャル・バック・ライン
(引用:アナトミ-・トレイン 徒手運動療法のための筋筋膜経線 第3版/医学書院/ト-マス・W.メイヤ-ズ )

上図のように、SBLは足の裏(足底)から下肢の後面~背部~後頭部~額まで連なるラインです。
これらの部分にある一部の筋肉が筋膜を通じて、それぞれつながっていることを示しています。

その他のラインについても、それぞれネット検索で探すことができますので、ぜひ目を通して見てください。

アナトミー・トレインの活用法

アナトミー・トレインとはどういうものであるかについて、ここまで見てきました。

ここからはセラピストにとって望ましい、「アナトミー・トレイン」の活用法について述べたいと思います。

セラピストの間でベストセラーとなっている「アナトミー・トレイン」ですが、本の内容は、実はとてもハイレベルです。
読んで全体をスラスラ理解できるのは、研究者レベルのセラピストだけだと思います。
ですので、ビギナーの段階で無理にこの本を購入する必要は無いと思います。
解剖の基礎的な知識を学んだ後、セラピストとしてステップアップする段階で入手して、必要に応じて少しずつ理解を深めていけば良いと思います。

一方で、アナトミー・トレインの7本の筋筋膜経線の走行ラインについては、画像のイメージを、早いうちから頭に入れておくことをおすすめします。
その理由は2つあります。

手技の幅を広げることができる

ビギナーの整体師は、クライアントがつらさを訴える局所を中心に施術を組み立てる傾向があります。

それ自体は決して悪いことではありませんが、臨床経験を積んでいくと、局所中心の施術だけではいまひとつ改善が見られない、という症例に出会うことになると思います。

このような時にアナトミー・トレインの知識があると、つらい部分と同一ラインにある他の筋や筋膜を刺激することで変化が出るかどうか試みてみるなど、より広い視点で発想できるようになり、自分が持つ手技の幅に広がりをもたらすことができます

一例を挙げてみると、SBLのつながりを活用して、背部の筋の緊張を緩めるためにアキレス腱を刺激してみるという発想もそのひとつです。

姿勢・動作分析をする際の参考になる

アナトミー・トレインの知識があると、姿勢や動作を見た際に、どこのラインに問題があるか推測できる時があります
この場合、そこが原因の一部になっていて、施術のポイントになるというケースも多くあります。
このように、クライアントの姿勢や動作の分析は、原因の把握と施術のポイントを見つけるために役立ちます。

一方、的確に分析ができるようになるためには、知識だけではなく経験も必要になってきます。
早い段階から上記のようなことを意識して、少しずつ経験を積み重ねるように心がけておくと良いでしょう。

まとめ

今回は総論編の最後として、アナトミー・トレインを取り上げました。

繰り返しになりますが、アナトミー・トレインはセラピストにとっては知っておいて損はない概念です。ぜひ理解・活用してみてください。

ゼロから始める基礎解剖学、総論編はこれで終わりです。
身体の各部位の解剖について解説する「各論編」がこの後の続きとなります。
どうぞこちらもご活用ください。

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