セラピストを目指す人のために最低限必要な知識を解説する、ゼロから始める基礎解剖学。
各論編の第3回目は「体幹の解剖学」を取り上げます。
肩こりや腰痛をはじめとして、整体師にとっては人体で最も触れたり、施術したりすることの多い部分となります。
また、しっかりとした知識がないと、施術中の事故などのトラブルも引き起こしやすい部分でもあります。
こうした点からも、この部分の構造をしっかりと理解しておくことはとても大切です。
なお、各論編の前回は「上肢の解剖学」となっています。
まだご覧になっていない方は、ぜひこちらも参考にしてください。
体幹前面の解剖学
まずは体幹前面の解剖についてみていきます。
体幹前面の骨
体幹前面の骨で重要なのは、鎖骨、胸骨、肋骨です。
いずれも表面から触知できるようにしておいて下さい。
また、肋骨は胸骨と肋軟骨でつながっています。
上から1~5番目の肋骨と胸骨のつながり方と、6番目~10番目までの肋骨のつながり方の違いにも注目してみてください。
肋骨は左右12対、合計24本あります。上から11番目と12番目は胸骨につながっていません。
体幹前面の筋
胸部
(グレイ解剖学の引用図を改変)
胸部の筋で臨床上大切な筋としては、大胸筋、小胸筋があります。
小胸筋は肩甲骨の烏口突起に停止していることも覚えておきましょう。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
大胸筋 | 鎖骨(内側1/2)・胸骨・肋軟骨・腹直筋鞘 | 上腕骨大結節稜 | 内側胸筋神経・外側胸筋神経 | 肩関節の屈曲・内転・内旋 呼吸補助筋 |
小胸筋 | 第2〜5肋骨 | 肩甲骨烏口突起 | 同上 | 肩甲骨を前方、下方に引く 呼吸補助筋 |
腹筋群
腹筋群で最も大切なのは腹直筋です。
恥骨から起始しており、肋軟骨・剣状突起に停止していることも覚えておくと良いでしょう。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
腹直筋 | 恥骨結合・恥骨 | 第5〜7肋軟骨前面・剣状突起前面 | 肋間神経 | 体幹を前屈 |
外腹斜筋 | 第5〜12肋骨の外面 | 腹直筋鞘・鼠径靭帯・腸骨稜 | 肋間神経・腸骨下腹神経 | 肋骨を引き下げ、脊柱を前屈 体幹をまわし、側屈 腹圧を高める |
内腹斜筋 | 胸腰筋膜・腸骨稜・鼠径靭帯 | 第10〜12肋骨下縁・腹直筋鞘 | ||
腹横筋 | 第7〜12肋軟骨内面・胸腰筋膜・腸骨稜・鼠径靭帯 | 腹直筋鞘 |
体幹後面の解剖学
ここからは体幹後面についてみていきます。
体幹後面の骨
脊柱・肋骨について
まずは脊柱(背骨)と肋骨についてみていきます。
脊柱は、7個の頚椎、12個の胸椎、5個の腰椎、仙骨、尾骨から構成されます。
これら構成する骨の数を常識として覚えることはもちろんですが、椎骨の構造、特に棘突起、椎体、横突起、椎間関節の位置・形状についても理解しておきたいところです。
棘突起の触知はセラピストの基本中の基本です。しっかり触知できるように実技の練習も忘れずに行いましょう。
胸郭について
次は胸郭の構造についてです。
肋骨と胸骨のつながりについては先ほど説明しました。
第11肋骨と第12肋骨は胸骨とつながっておらず、浮肋(遊離肋)と呼ばれます。
肋骨と椎骨が作る関節である肋椎関節の形状は上図ではわかりませんが、こちらも大切なので、解剖学書などで確認しておいてください。
胸郭の施術は要注意‼
肋骨骨折は、整体の施術事故で頻度が高いものの一つです。
背部の施術を行う場合は、肋骨骨折を起こさないように細心の注意を払う必要があります。
クライアントの体格、性別、年齢などを考慮して慎重に施術しましょう。
また、要注意なのが浮肋です。
初心者が背部(特に腰部)の施術を行う場合には、あらかじめ浮肋の位置を確認する習慣をつけるようにしましょう。
確認せずに、腰の筋肉をほぐすつもりで浮肋を押し込み骨折させる。
こんなことが起こらないように十分注意してください。
腸骨・仙骨
腸骨は後下部の坐骨、前下部の恥骨と合わせて寛骨とも呼ばれます。
骨盤の骨の形状については十分理解しておくとともに、最低限、上前腸骨棘、腸骨稜は触知できるようにしておきましょう。
肩甲骨
肩甲骨後面の構造のなかで重要なポイントは、上角・下角、棘上窩・棘下窩、肩峰です。
それぞれの位置を覚えるとともに、上角、下角、肩峰については体表から触知できるようにしましょう。
体幹後面の筋
肩後面周囲の筋
(グレイ解剖学の引用図を改変)
肩周囲の筋肉はいずれも重要な筋肉となります。
それぞれの位置、起始・停止、作用についてはできる限り覚えましょう。
また、棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つの筋肉は、肩関節を上・後・前の3方から包み込むように存在しており、上腕骨の大・小結節に停止しています。
これらの4つの筋の腱を総称して回旋腱板(ロテーターカフ)と呼ぶことも覚えておきましょう。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
三角筋 | 肩甲骨の肩峰・肩甲棘・鎖骨の外側1/3 | 三角筋粗面 | 腋窩神経 | 上腕の外転(側方挙上)、屈曲(前方挙上)、伸展(後方挙上) |
棘上筋 | 棘上窩 | 大結節 | 肩甲上神経 | 上腕の外転 |
棘下筋 | 棘下窩 | 大結節 | 同上 | 上腕の外旋 |
小円筋 | 肩甲骨外側縁 | 大結節 | 腋窩神経 | 上腕の外旋 |
大円筋 | 肩甲骨下角 | 小結節稜 | 肩甲下神経 | 上腕の内旋・内転 |
肩甲下筋 | 肩甲下窩 | 小結節 | 同上 | 上腕の内旋 |
体幹周囲後面の筋
肩甲挙筋、大・小菱形筋、僧帽筋はいずれも重要な筋肉です。
それぞれの位置について理解しておきましょう。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
僧帽筋 | 外後頭隆起 項靭帯 全胸椎棘突起 | 肩甲棘 肩峰 鎖骨外側1/3 | 副神経 頚神経叢 | 上部は肩甲骨と鎖骨の挙上 中部は肩甲骨を内方に引き固定下部は肩甲骨を回転し、上腕の挙上を助ける |
肩甲挙筋 | 第1〜4頚椎横突起 | 肩甲骨上角 | 肩甲背神経 | 肩甲骨を上内方に引く |
小菱形筋 | 第6・7頚椎棘突起 | 肩甲骨内側縁上部 | 同上 | 同上 |
大菱形筋 | 第1〜4胸椎棘突起 | 肩甲骨内側縁 | 同上 | 同上 |
脊柱起立筋、腰方形筋は腰部・背部の施術において重要な筋肉となります。
それぞれ「ここにある」というように触知できるようにしておきましょう。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
脊柱起立筋 | 仙骨背面 下部腰椎棘突起 腸骨稜 | 腸肋筋:肋骨 最長筋:肋骨・棘突起 棘筋:上位の棘突起 | 脊髄神経後枝 | 頭および脊柱の背屈・側屈 |
腰方形筋 | 腸骨稜 | 第12肋骨 | 腰神経叢 | 腰椎の側屈・後屈 |
殿部周囲の筋
殿部周囲で重要な筋肉は、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、梨状筋となります。
坐骨にある大坐骨孔は、梨状筋によって梨状筋上孔と梨状筋下孔をつくります。梨状筋上孔には上殿神経、上殿動・静脈が通り、梨状筋下孔には坐骨神経、下殿動・静脈、下殿神経、内陰部動・静脈、陰部神経が通ります。(下図参照)
このように梨状筋は臨床上でも重要な筋肉です。
起始 | 停止 | 支配神経 | 作用 | |
---|---|---|---|---|
大殿筋 | 腸骨外側面 仙骨・尾骨後面 仙結節靭帯 | 大腿骨殿筋粗面 腸脛靭帯 | 下殿神経 | 股関節の伸展、腸脛靭帯を緊張させ膝関節を伸展させ直立姿勢を保つ |
中殿筋 | 腸骨外側面 | 大腿骨大転子 | 上殿神経 | 大腿の外転 |
小殿筋 | 同上 | 同上 | 同上 | 大腿の外転・内旋 |
大腿筋膜張筋 | 上前腸骨棘 | 腸脛靭帯 | 同上 | 大腿の屈曲、下腿の伸展 |
梨状筋 | 仙骨前面 | 大腿骨大転子 | 仙骨神経叢 | 大腿の外旋 |
まとめ
ここまで、体幹の解剖学についてみてきました。
最初にも述べましたが、体幹は整体師にとって、理解がとても大切な部分です。
繰り返し見て、イメージと知識をものにしてください。
次回は各論編の4回目「頭部の解剖学」を取り上げます。