整体院と競合する他業界のお店というと、皆さんはどこを思い浮かべますか?
指圧マッサージ店、エステサロンなど色々と浮かぶと思います。
中でも最も競合するお店は、整骨院であると言っても過言ではありません。
整体院と整骨院の競合関係は、近年その激しさを増しつつあります。
今回は、整体院と整骨院の競争激化の背景について解説します。
ちなみに筆者がこの業界に入った20年ほど前は、現在よりも両者の間に棲み分けができていました。
整骨院は保健取扱の患者を中心に扱い、施術は医療機器を併用し手技の時間は短かいが、その分料金は安い。
整体院は1人につき1時間前後時間をかけて手技を行い、マンツーマンで行う分料金は高い。
このように、ニーズの違いと料金の違いが現在よりも明確でした。
また全国的なチェーン店なども今ほど隆盛では無く、両者とも個人経営の店がほとんどでした。
競合関係が激化した3つの要因
このように以前には棲み分けできていた両者でしたが、現在では激しい競合関係にあります。
以前できていた棲み分けができなくなった理由は、大きく分けて3つあります。
- 整骨院数の増加
- 整骨院の収益構造の変化
- 整体院のチェーン化と低価格化
3つのうち前2つは整骨院側の要因であり、3つ目は整体院側の要因となります。
ここからはそれぞれの要因の状況と影響について見ていきたいと思います。
整骨院数の増加
まずは整骨院数の増加の実態について見てみましょう。
整骨院数の増加の実態
(データ引用元:https://www.hone-u.com/industry-info/statistics/det8b1zb.php)
平成4年に18,552ヵ所であった整骨院の施術所数は、平成30年には50,077ヵ所、2.7倍に増加しています。
この増加の背景には、整骨院で施術を行う柔道整復師の数が増えていることが関係しています。
平成4年に24,776人であった就業柔道整復師数は、平成30年に73,017人、2.9倍に増加しています。
柔道整復師が大幅に増えた理由は、養成学校数が増加したことにあり、学校が増えた訳もあるのですが、その経緯については本論から外れるのでここでは割愛します。
実態はすでに供給過剰
このようにおよそ全国に5万ヵ所ある整骨院ですが、本来の需要に対してすでに供給過剰であると言えます。
施設数 | ||
---|---|---|
コンビニ | 58,393 | H20.3月末時点 |
一般診療所 | 102,712 | R1.11月時点 |
歯科診療所 | 68,479 | 同上 |
上記は他業種の施設数です。整骨院数は全国のコンビニの数、歯科診療所の数に匹敵する状態であり、クリニックなどの一般診療所の半分の数に匹敵します。
整骨院にとっての元々の施術対象は、打撲や捻挫などのケガが中心です。
平均的な日本人の日常生活を考えてみてください。ケガで通う必要のある場所が、コンビニや歯科医院と同じくらい必要でしょうか?風邪や生活習慣病など、広範な範囲の症状をカバーする一般診療所の半分も必要でしょうか?
このように、整骨院の元々の施術対象を考慮すると、実態はすでに供給過剰であるといって良い状況です。
収益構造の変化
供給過剰の実態は、整骨院の収益構造の変化を引き起こしています。
その変化とは次の2点です。
- 保険取り扱いによる売上の減少
- 上記減少分を埋めるための自費メニューの拡大化
健康保険による売上は3割減
整骨院は、外傷性が明らかな骨折、脱臼、打撲・捻挫に対して、健康保険を適用して施術を行うことができます。
こうしたいわゆる「保険取り扱い」による売上は、整骨院にとってメインとなる収益源になってきました。
ところが、需要を上回る整骨院数の増加に伴い、この収益モデルが変化してきています。
この実態について「週刊ダイヤモンド」の記事が詳しいので一部引用します。
日整の内部調査では、09年は年間1100万円近かった会員1人当りの療養費給付額は、17年に750万円を切るまで落ち込んだ。これは施術所の平均的なランニングコストを引けば手元には300万円ほどしか残らない計算だ。
(週刊ダイヤモンド 2019/11/16 「特集 整骨院の裏側」)
(筆者注:「日整」=開業柔道整復師が主な会員である業界団体「日本柔道整復師会」、「療養費給付額」≒「健康保険」による売上)
このように、整骨院では従来中心としてきた健康保険取り扱いからの売上は減少傾向にあります。
自費メニューの拡大
こうした保険取り扱いの売上減少を背景にして、減少分を埋め合わせるため、「骨盤矯正」などの自費メニューを取り入れ、拡大していこうという整骨院が増えてきています。
ここまで見てきたように、供給過剰により従来の収益源を失いつつある整骨院が、自費施術に移行して、整体院の領域に食い込んできているという流れがあります。
そしてこれが整体院と整骨院の競争激化の直接の要因のひとつとなっています。
整体院を開業する例も
一方で柔道整復師の中には、将来の伸びが期待できない保険取り扱いに見切りをつけ、完全自費施術に移行する者も増えてきています。
こうした人の中には、「整骨院」ではなくあえて「整体院」を開業する人も増えてきています。
その理由は、柔道整復師法の広告制限にあります。
整骨院は法律によって広告できる事項に制限があります。
例えば「初回、料金50%OFFクーポン」などをタウン誌等に掲載することは、整体院であれば可能ですが、整骨院はできません。
保険を取り扱わないのであれば、整骨院を名乗る必然的はありません。
むしろこうしたマーケティング上の制限を取り払い、より自由な営業活動を求め、最初から「整体院」を開業してしまう柔道整復師も出てきています。
こうした例は、整体院と整骨院の直接的な競合ではありませんが、整体院しか開業の選択の余地のないセラピストにとってみれば、間接的に競争が激化している要因となります。
整体院のチェーン化と低価格化
ここまでは競争激化の要因が整骨院の側にある部分を見てきました。
ここからは、整体院の側に起こっている要因を見ていきます。
整体院の数も増えている
整骨院と異なり、整体院の数に関しては公的な数字が見当たらず、総数については不明です。
しかしながら、民間調査機関のレポートにもあるように、リラクゼーション業界の市場規模自体は年に数%程度の成長を示しています。
また大手リラクゼーションチェーン店の出店攻勢も一時期より伸びの鈍化傾向が見られるものの、依然として増えていることから、整体院全体の数としては増えていると見てよいでしょう。
(詳細は別記事をご覧ください)


低価格化による整骨院の顧客層の取り込み
このような整体院(特に大手リラクゼーションチェーン店)の増加は、施術料金の低価格化を引き起こしています。
結果として整骨院で支払う料金と整体院で支払う料金の価格差は、従来よりも縮まってきています。
従来整骨院で支払っていた料金に、プラス1,000円~1,500円追加することで、整骨院の何倍も長い時間の手技を受けることが可能となってきています。そのため従来整骨院に通院していた顧客層の一部を整体院が取り込みつつあります。
以上のように、整体院の数の増加と低価格化も整骨院との競争激化の要因になっています。
まとめ
今回は整体院と整骨院の競争激化の要因について見てきました。
整骨院側の要因、整体院側の要因、双方ありましたが、どちらも当分の間継続するであろう要因といえます。
そのため双方の競争関係はしばらく継続するであろうと予想されます。
整体院を今後開業しようとする方は、周囲の整骨院の動向も把握した上で、自店の独自性を模索することが必要になると思います。